エッセイ 静かなドイツの森の窓から
シュツットガルト郊外にある「マウルブロン修道院」。
ユネスコ世界遺産に登録されているこの修道院の修道士は普段から完全な菜食を貫いており、平信徒(仏教でいう在家)は断食期間中の肉食を絶つように促されています。
キリスト教の断食期間は毎年変動しますが、今年は3月1日から4月15日まで。
「断食期間」と 「マウルブロン修道院」に纏わる、こんなお話があります。
17世紀半ば、三十年戦争と呼ばれる悲惨な戦争は、ドイツの都市も農村も荒廃させました。
この戦争のせいでドイツ人口は約3分の1まで激減してしまいました。
そんなある日、「マウルブロン修道院」の修道士は、回廊にお肉の塊を見つけます。
それは肉食がタブー中のタブーである断食期間中の出来事でした。
厳しい修行に耐え抜いている修道士は並々ならぬ自制心を持っています。
しかし今まさに、ドイツ全土が餓死の恐怖に襲われ続けている緊急事態。修道士はお肉を手に取り、料理する決心をしました。お肉を可能な限り細かく切り、ほうれん草と混ぜました。
「断食期間中の肉食は神への冒涜。どうか神の怒りに触れませんように。」と苦悩した修道士は、ある手段を取ります。
「神様からお肉が見えないように、ほうれん草と一緒に皮の中に包もう。 」
このような逸話から、この料理は「神への欺き(Herrgottsbscheiserle)』という渾名を持ち、「マウルタッシェ」と呼ばれています。
現代ドイツ人の約10%は菜食主義者であり、そのほとんどは20代の若者です。
神を欺いてまでお肉を入れた「マウルタッシェ」は、400年の時を経て変化しました。
今の若者に人気なのは 「お肉なし野菜マウルタッシェ」 なのです。
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