エッセイ 静かなドイツの森の窓から
「飼い葉桶」を意味する「クリッぺ(Krippe)」は、イエス・キリストの生誕の様子をフィギュアで表したもので、12月の風物詩です。
イエス・キリストは牛やロバを飼う家畜小屋で生まれ、飼い葉桶に寝かせられていたと伝えられています。
飼い葉桶を囲むようにマリアとヨゼフ、それを見守るかのような羊飼いと羊がいるのが一般的なクリッペですが、凝ったものですとそれ以外にも、聖書に登場する人物や動物がいたり、家畜小屋の周りの樹木や星や、生誕話に纏わるいろいろな小道具などもあります。
シュツッツガルトのクリスマスマーケット敷地内のクリッペも本格的です。本物の家畜小屋が設置され、期間中は馬や羊やロバが飼われており、家畜小屋の中には、木彫りで等身大に作られたマリアやヨゼフや生まれたばかりのイエス・キリストのフィギュアが飾られてあります。
クリッペの大きさは実に様々で、このように等身大のものから、マッチ箱の中に幾つものフィギュアが収められているような超ミニチュアなものまであります。 サイズだけでなく素材もいろいろです。木や陶器や蝋などが主な素材ですが、伝統的なクリッペはシモフリ松の木が使用されています。シモフリ松の木は、柔らかくて彫りやすく、害虫を寄せ付けず、香ばしい匂いを放つため適しているそうです。
ドイツ東部にあるエルツ山岳地方(シュツッツガルトから東へ450km)は、クリッペなどの木彫りの工芸品の産地として有名です。この地方の伝統の技で作られるクリッペはとても高価ですが、美しく温かみに溢れて魅力的です。
「いつか自分好みのクリッペを自宅に飾りたい」と願って、そのために貯金をし、450km離れているエルツ山岳地方まで足を運び、好みの作家に特注する友人もいます。
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