エッセイ 静かなドイツの森の窓から
聞こえるのは鳥の囀りのみ。
カッコウの歌声とキツツキが樹をツツく音が静寂の中に響く。
それが私のドイツの家です。
シュツットガルト市内の森の中にポツンとあります。
森の向こうにはビール醸造所があり、9月の最終土曜日には「あの音」が訪れます。
パッポコ、パッポコ、パッポコ。
おしゃれな伝統衣装に身を包んだかわいらしい馬たちのパレードです。
そうです、恒例のビール祭りの始まりです!
出来立てビールを50樽ほど乗せた祝祭用の各馬車は、醸造所からビール祭り会場までの約10kmの道のりを行進します。
ビール樽も生花で可憐に飾られており、見ていて思わず溜息が出てしまいます。
樽の中のビールを飲みたいと心がはやります。
お祭り会場は地元の醸造所が建てたビールテントや、300機以上の最新かつハイテクなアトラクションや、無数の屋台や射的などがあるゲームセンターで賑わっています。
「これがテントなの? 』 ビールテントとは2千人は軽く収容できる超大型ログハウスのことで、収容人数が6千人を超えるものもあります。
「どの醸造所のビールテントに入ろうかなぁ。ワクワク!」 ビールテント選びも高揚感を高めてくれます。
気に入ったビールテントに入場し、1リットルサイズビールジョッキを片手に、音楽隊の生演奏に合わせて肩と肩を組んで歌い合い、腕を組んで踊り、馬鹿話をして陽気に盛り上がります。
日本人にとって馴染み深い名前「オクトーバーフェスト」はミュンヘンで開催されるビール祭りの名前で、シュツットガルトのは 「カンシュタッターフォルクスフェスト」という長い冠を授かっています 。
シュツットガルトでのビール祭りは9月の4週目〜10月の1週目に行われ、その期間中のビール消費量は300万リットル以上です。ソーセージ、南ドイツ風餃子(マウルタッシェン)、皮カリカリ豚すね肉の骨付きグリル、ドイツ風焼き鯖など、ビールと一緒に食すと何と美味しいことか! 「楽しく飲んだり食べたり出来る平和な世の有り難さ!」 を痛感します。
19世紀のヨーロッパは大飢饉に苦しんでいました。
シュツットガルトのビール祭りは大飢饉の終焉を安堵し実りの秋を喜ぶ収穫祭として1818年に始まり、約200年続いています。
お祭りが終わると、350ヘクタール(東京ドーム7,5個分)の会場は元の広大な原っぱにかえり閑けさが戻ります。ビールテントもアトラクションも2週間だけのための仮設なのです。
人も土地も、思いっきり弾けた後は静かな日常へと 戻っていくのです。